ChatGPT Workで、IPO準備の「最初のたたき台」づくりが変わります。国際法律事務所のCooleyが、OpenAIの技術で自社のAIサービス「GO Public」を組み上げました。山のような情報をAIが先に仕分け、弁護士と経営陣は判断に時間を使います。180件の案件を助言してきた事務所が選んだのは、速さそのものではなく、質へ早く着くための道筋でした。
締め切りを前に資料の山と向き合い、「どこから手をつければいいのか」で半日が過ぎていく。ChatGPT Workが入り込もうとしているのは、そんな仕事の入り口です。
KPEはOpenAIが2026年9月17日に公開した事例記事を読み、CooleyがAIに何を任せ、どこを人の確認に残したのかを確かめました。
読み終えるころには、自分の仕事で「AIに下ごしらえを任せる部分」と「手放さない判断」の境目をどこに置くか、決められるはずです。
1. 法律事務所が、IPOの下ごしらえをAIに任せた
今回発表されたのは新製品ではなく、AIの「使い方」の話です。国際法律事務所のCooleyが、OpenAIのChatGPT Workを土台にして、IPO(新規株式公開)の準備を支えるAIサービス「GO Public」を自社で組み上げました。膨大な情報をAIが先に整理し、弁護士がそれを確認して検証します。仕事の順番そのものが入れ替わっています。
01 GO Publicは、ChatGPT Workで作った自社サービス
GO Publicは、Cooleyが独自に開発したAIサービスです。土台にはChatGPT Workがあります。Cooleyはその上に「agentic harness」(AIのエージェントを動かすための作業の枠組み)を作り込みました。エージェントが情報を分析し、弁護士がそれを見直して検証する流れです。最後に、その会社のIPOに合わせた出発点がひとつにまとまります。
作ったのはエンジニアだけではありません。リーガルエンジニア、イノベーション担当の弁護士、実務の弁護士が一緒になり、事務所に積み上がった資本市場の経験をAIの仕組みに移し替えたといいます。Chief Innovation OfficerのDavid Wang氏は、この取り組みを事務所のノウハウを「AIの時代へ持ち込む」ことだと語っています。
02 「何千ものこと」が同時に動く仕事
Cooleyは、資本市場とIPOの分野で知られる事務所です。2025年には世界で180件の案件を助言し、取引総額は$51.5 billionを超えました。米国の発行体側IPO市場では10年にわたってトップの実績を持ちます。過去20年あまりで、ベンチャー企業のIPOを最も多く手がけた事務所でもあります。
それでも現場はいつも忙しい、とWang氏は言います。IPOがあると、休みなくこなすべきことが何千とあるそうです。資本市場の仕事は、膨大な情報を集め、まとめ、読み解く仕事でもあります。量に押しつぶされそうなところから、AIの導入は始まりました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発表元 | OpenAI(2026年9月17日) |
| 導入した事務所 | Cooley(国際法律事務所) |
| サービス名 | GO Public(Cooley独自のAIサービス) |
| 土台 | ChatGPT Work |
| 役割分担 | AIが分析、弁護士が確認・検証 |
| 日本での提供・料金 | 公式発表では未公表 |
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AIの請求書の向こう側が、ChatGPT Workで見えるようになる
AI導入効果が、利用量ではなく仕事の中身で見えてきます。OpenAIは、ChatGPT WorkとCodexの利用状況・費用・業務の内訳・成果を管理画面でまとめて確かめる方法を公開しました。営業チームの試算では、年5,520時間の余裕が生まれる計算です。数字の先に、人の時間がある。
2. 前例からではなく、その会社から始める
変わるのは、仕事の「最初の一枚」です。これまでは、似た会社の前例を持ってきて、目の前のクライアントに合わせて直すのが定番でした。GO Publicは、クライアント自身の情報から出発します。借りてきた型を削っていくのではなく、その会社の形から組み立てるやり方です。弁護士が最初に目を通す下書きは、ここで入れ替わる。
01 たたき台の材料は3つ
発表によると、GO Publicは3つの材料を組み合わせて、弁護士が検討するための出発点をつくります。クライアントから提供された情報、関連する公開情報、そして丁寧に選んだ前例です。前例を捨てたわけではありません。前例を「材料のひとつ」として置き直した、と読むのが自然です。
暮らしの言葉に置き換えると、よその家の献立を借りて味を直すのではなく、冷蔵庫の中身を見てから献立を考えるのに近いやり方です。どちらでも料理はできます。ただ、最初から自分の家の食材で考えれば、手直しにかかる時間を減らせる余地がある。浮いた時間は、味見にまわせます。
02 AIに任せる所と、人が見る所は決めてある
harnessは、3つのことを定める仕組みです。エージェントが自動で進めてよい手順、弁護士が確認・検証しなければならない地点、そして全体のまとめ方です。AIに丸ごと任せるのではなく、任せる範囲をあらかじめ決めています。この事例でいちばん大事なのは、この点です。
もうひとつの支えが、過去の分析から集めた情報です。Wang氏はこれを「baked-in know-how」(あらかじめ組み込まれたノウハウ)と呼びます。さらにCooleyはOpenAIと密に連携し、法律の専門知識とAIエンジニアリングの知見を組み合わせています。正しい手順が正しい結果につながるように、仕組みを整えているといいます。
| 観点 | これまで | GO Public |
|---|---|---|
| 出発点 | 似た会社の前例 | クライアント自身 |
| 材料 | 前例を手で合わせ込む | 提供情報・公開情報・厳選した前例 |
| 人が時間を使う所 | 大量の情報の仕分け | 判断・開示の吟味・戦略 |
3. 速く終えるためではなく、考えるための時間
この発表の中心は、スピードの自慢ではありません。パートナーのDave Peinsipp氏が掲げるのは「speed to quality」という考え方です。同じ仕事を速く片づけるのではなく、しっかりした出発点に早くたどり着き、残った時間を判断にあてます。速さは目的ではない。考える時間をつくるための手段なのだ。
01 最初の仕分けをAIに任せると
Wang氏によると、ChatGPT WorkをGO Publicに組み込んだことで、以前は手作業で仕分けていた膨大な情報をAIで処理できるようになりました。最初の仕分けが済めば、人の労力と専門性を、いちばん価値の高い部分に集められます。人が要らなくなる話ではありません。人の出番を絞り込む話です。
Peinsipp氏によれば、そのぶん弁護士は、判断を下す、開示の中身に疑問をぶつける、会社にとって本当に大事な論点を戦略的に考える、といったことに時間を使えます。法律家には、依頼人にとって最善で、法的にも守りきれる結果を出す職業上の義務があります。Wang氏の言うとおり、それには多くの手間がかかる。だからこそ、どこに手間をかけるかを選ぶことに意味があります。
02 経営陣の時間も、本業に戻る
恩恵は弁護士だけにとどまりません。IPOの準備には、動きの速い事業を率いる経営陣の注意も割かれます。Peinsipp氏は、IPOは会社の一生のなかでもとりわけ重大な瞬間で、経営陣の注意を大きく奪うことがある、と話しています。
発表では、ChatGPT Workで集中的な準備を速く進め、経営陣に時間を返したいという狙いも語られています。経営陣に注意を向けてほしいのは、経営陣にしか価値を出せない場所です。事業そのもの、会社の物語、そして上場のかたちを決める意思決定がそれにあたります。「時間を返す」という言い方が、この仕組みの性格をよく表している。
4. 自分の仕事に持ち帰るなら、ここから
GO Publicは、Cooleyが独自に開発した同事務所のサービスです。それでも、持ち帰れるものはあります。仕事を「AIに任せる手順」と「人が確かめる地点」に分けて考える、という発想です。この考え方はIPOのような大仕事でなくても使えます。資料の山を前にため息をついている人ほど、試してみる価値がある。
01 向いている人、まだ様子見でいい人
向いているのは、判断の前に大量の資料を読んで整理する時間が長い人です。前例やテンプレートを探して手直しするのが仕事の大半になっているなら、Cooleyの事例はそのまま参考になります。企画書、報告書、社内の申請書類など、たたき台を毎回探し回っている仕事は意外と身近にあります。
一方で、Wang氏が言うように、法律業界はもともと変化に慎重な業界でした。Cooleyは、専門家の判断と責任を守ったうえでAIを取り入れています。この点を見落としてはいけません。確認の手順を決めずにAIの出力をそのまま使う職場では、この事例の良さは生きない。線引きの設計が先で、道具は後です。
02 今日からできる、小さな線引き
やることはシンプルです。まず、自分の仕事を「集める」「まとめる」「判断する」の3つに分けて書き出します。次に、AIに下書きを任せられる所と、自分の目で確かめなければならない所に印をつけます。これだけで、Cooleyのharnessの小さな版ができます。
Peinsipp氏はGO Publicを資本市場の実務の未来像と呼び、IPOに限らず資本市場の取引全般に大きな可能性があると話しています。段取りを見直すのに、特別な準備は要りません。面倒な仕分けを先に引き受けてくれる相棒がいれば、人は考える仕事に戻れます。この流れに乗らない手はありません。
5. よくある質問
GO Publicとは何ですか
国際法律事務所のCooleyが、OpenAIのChatGPT Workを土台に独自に開発したAIサービスです。AIのエージェントがIPOに関わる情報を分析し、弁護士がそれを確認・検証します。その結果、その会社に合わせたIPO準備の出発点ができあがります。
ChatGPT Workは日本でも使えますか
今回の発表はCooleyの導入事例です。ChatGPT Workの日本での提供状況や料金は、公式発表では未公表です。利用を考える場合は、最新の条件をOpenAIの公式情報で確かめてから判断するのが確実です。
AIが弁護士の代わりになるのですか
発表の趣旨はその逆です。harnessという仕組みで、エージェントが自動で進める手順と、弁護士が確認・検証する地点が決められています。AIは情報の最初の仕分けを担当し、人は判断、開示内容の吟味、戦略の検討に時間を集中させる設計です。
speed to qualityとはどういう意味ですか
Cooleyのパートナー、Dave Peinsipp氏の言葉です。同じ仕事をただ速く終えるのではなく、しっかりした出発点に早くたどり着くという意味です。浮いた時間で、弁護士は判断を下し、開示に疑問を投げかけ、重要な論点を戦略的に考えられます。
これまでのIPO準備と何が違いますか
これまでは、似た会社の前例を出発点にして、クライアントの事情に合わせて直す進め方が多かったといいます。GO Publicはクライアント自身から始めます。提供された情報、関連する公開情報、厳選した前例を組み合わせて、弁護士が検討する出発点をつくります。
Cooleyはどんな法律事務所ですか
資本市場とIPOの支援で知られる国際法律事務所です。2025年には世界で180件の案件を助言し、取引総額は$51.5 billionを超えました。過去20年あまりで、ベンチャー企業のIPOを最も多く手がけた事務所でもあります。
6. まとめ
CooleyのGO Publicが示したのは、AIに仕事を丸ごと渡す未来ではありません。仕事の入り口をAIが整え、人は判断の場所に立つという分担です。前例を借りて直す代わりに、その会社の情報から始める。任せる手順と確かめる地点を先に決めておく。IPOという大きな舞台の話ですが、資料の山と向き合うあらゆる仕事に通じる考え方です。道具を選ぶ前に、まず自分なりの線を引いておくことができます。
- 仕事の分解:集める・まとめる・判断するの3つに分けて書き出す
- 任せる範囲:AIに下書きを任せられる手順に印をつける
- 確認の地点:自分の目で確かめる所を先に決めておく
- 材料の見直し:前例頼みか、自分の情報から始めているかを点検する
- 提供条件:ChatGPT Workの条件はOpenAI公式で確認する





